概要 |
CG研究では,写実性を追求するCG技法の発展とともに,画材の質感を表現しようとするNPR(Non-Photorealistic Rendering)と呼ばれる技法の研究が大きな流れとなっている。これまで研究対象とされてきた画材には,油彩・水彩・水墨画・ペン画・鉛筆・色鉛筆・クレヨン・チャコールなどがあげられる。これらの研究の多くはまず,画紙・画布上に描画材を塗布することによって得られる描画軌跡(...ストローク)を生成し,このストロークを用いて画面を作ることによって,画材の質感を持った画像を得ている。画面の作り方には大きく,(1)参照画像や参照モデルから取得したデータを用いてストロークを自動生成させる手法と,(2)ストロークを描画ツールへと適用させ,ユーザが画面を作る手法の二つがある。また,(1)の手法はしばしば,アニメーションの生成へと発展が行われる。
本論文は,パステル画調レンダリング技術の開発を目的とする。パステルは顔料をほぼそのまま固形化したものであり,柔らかく崩れやすいため,ストローク描画手法が紙面の凹凸や微細構造と複雑に関わってくる。NPRにおいてパステルの質感表現を行った研究は既に幾つか存在しており,その多くは,やはりストロークの生成に焦点を当てている。しかし,その生成手法は,実際に描かれたパステルのストロークをスキャナ等を用いて画像に変換して利用するものであって,顔料の性質や筆圧,描画の方向といった複雑なパラメータを扱うことは困難であった。
本論文では,画紙モデルと,数理的に定義されるストロークモデルを生成し,これらのモデルの組み合わせによってパステル風のストロークをCG上で実現した。また,生成したストロークを三次元モデルへ適用し,パステル画風の画像の自動生成を行い,アニメーションの制作へと発展させた。また,ストロークをリアルタイムで生成できるよう画紙モデル及びストロークモデルを改良することでドローイングツールへの応用を行った。これらを簡単に説明すると以下の通りである。
Ⅰ. パステルの質感を持ったストロークの生成
パステルの構成要素である顔料粒子が,描画を行う媒体である画紙へと付着し,パステルストロークをなす過程のシミュレーションを行い,CGによるパステル風ストロークを生成した。更に,パステル特有の表現技法であり,顔料の粒子を紙面上に薄く広げていく「ぼかし」技法の表現を実装した。紙面はHeight Fieldを用いてその凹凸の高さに応じた付着率を設定し,実際の顔料粒子の分布や付着の現象をシンプルなパーティクルモデルとして表現しているため,実物のパステルで描いたストロークに近いパターンが生成できた。また,筆圧や顔料の柔らかさといったパラメータを変化させることで描画結果のコントロールを行うこともできた。
Ⅱ. 三次元オブジェクトデータへのストローク適用とアニメーション
Ⅰで生成したストロークを用いてパステル画風の画像の自動生成を行った。ここでは,三次元オブジェクトから得た情報を元にしたストロークパスの配置法を開発した。配置されたストロークパスに沿ってストロークをレンダリングすることで最終的な画像を得た。オブジェクトには,ポリゴン編集型の3DCGソフトウェアによって生成されたものを想定している。ポリゴン編集の過程で作られるポリゴン同士のつながりをストロークベクトル生成に利用することで,オブジェクトへの不自然でないストローク適用が可能となった。更に,このモデルを利用してアニメーションの作成を行った。アニメーションフレーム間のストローク位置の対応付けを行うことで,「ちらつき」を軽減したアニメーションを生成することができた。
Ⅲ.タブレット入力によるドローイングシステムの制作
Ⅰで生成したストロークをドローイングツールに適用した。Ⅰで行ったシミュレーションでは,微細な顔料粒子の散布を行ったために,生成に時間がかかる。また,ドローイングツールのためには描画の方向や筆圧に対して細かく反応しなければならないため,そのまま用いるとリアリティの点で問題が生じてくる。これらの問題を解決するために,ストローク生成手法の改良を行った。顔料散布計算を,12方向から光を当てて撮影した紙面の画像を使ったIBMR(Image Based Modeling and Rendering)処理に置き換えることで,リアルタイムかつリアルなストローク生成が実現することを示した。この,複数の被照射紙面画像を用いたストローク生成手法は,これまでに提案されていない。パステル風CG画像作成支援システムとして,この方法を使ったドローイングアプリケーションを制作した。
以上のように,紙面のモデルとストロークモデルの組み合わせによって得られるパステル画風のストローク生成手法,これを利用した三次元オブジェクトのレンダリング及びアニメーション手法,リアルタイムでのストローク生成の各手法について新しい手法が実現され,これら一連の研究により,パステルの質感を持った画像を生成することができた。続きを見る
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