<博士論文>
空気伝導による超音波がヒトの生理反応に及ぼす影響に関する研究

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概要  高周波音である超音波は医療分野で広い範囲応用されるが,超音波が生体を刺激するメカニズムは複雑であり,生物学的に不明な点が多い。可聴域上限を超える超音波はイルカやコウモリ等の生物が重要な情報の伝達や獲得に使用している。温度や光をはじめとした物理刺激に対する感受性を数多く有することは環境適応へ有利に働くであろう。ヒトは可聴域以上の聞こえないとされる超音波に対して何らかの感受性を有するのであろうか。超...音波は潮騒や風の音の中にも含まれるばかりかオフィス内の種々の電化製品からも発生している。超音波がヒトの生理反応にどのような影響を与えるのかを探ることはヒトの環境適応能を探る上でも,また快適なオフィス空間を構築する上でも重要である。生理学の分野において,超音波に関しては,骨伝導に関する研究が多い。それ他,超音波を含む特殊音を用いた研究が挙げられるが,情動が生じる可能性が考えられるので,超音波のみによる生理的影響を探る必要性が示唆される。以上の観点を踏まえ,本研究では空気伝導による超音波がヒトの生理反応に与える影響の基礎資料を得ることを目的とし,自律神経系の指標である心拍数,連続血圧,脳の活動レベルをあらわす脳波,覚醒水準を評価するCNVを用い,無響室内でツイーターの装置によって呈示される超音波の条件に対する応答について検討する。本論文は以下の4章より構成されている。
 第1章では,本研究の背景に言及し,超音波が人体に及ぼす影響について生理指標を用いる検討が必要であることを述べた。空気伝導による超音波がヒトに及ぼす影響については,特殊音を用いた検討以外にはほとんどないのは現状であり,特殊音による情動の生起が起こりやすいことから,ホワイトノイズといった普段生活騒音から超音波を抽出すべきことを述べ,更に無響室内で実験を行う必要性を述べた。これらの視点から,ヒトの自律神経系及び中枢神経系に注目し,生理指標である背景脳波,心拍数,連続血圧,CNVを用いて超音波を評価することを述べた。
 第2章では,超音波がヒトの生理反応を変えるかどうかについて検討した。その結果,超音波呈示することによってLF成分,LF/HF共に増加したことから,超音波は心臓交感神経活動を増加させる可能性が示唆された。一方,収縮期と拡張期の血圧共に変化がなかった。心臓交感神経活動が増加したことから,超音波は交感神経の神経伝達物質β受容体のアドレナリンを分泌させる促進作用が考えられる。脳波ではα1波の上昇とβ1波の減少から超音波はヒトの脳の活動を低下させた可能性が示唆された。後頭部でのα1波の増加は大橋らの結果を支持するものである。しかしながら,可聴音がない状態でも超音波の影響が見られたことは大橋らの結果と異なる。大橋らはガムラン音楽や波音という情動を生じやすいものであり,本研究で得られた結果から情動が伴わずとも超音波による脳波が変化したので,超音波自体に脳の覚醒水準を低下させる作用があると示唆された。一方,超音波によって脳波のβ2波の増加という結果から超音波による覚醒水準の抑制について一貫した結果ではなかった。また,交感神経系の興奮は急性なストレッさーに対する反応であり,脳活動はノルアドレナリン神経活動の増加により速波化することが推測される。これらの結果から超音波による脳の覚醒水準を明確するには,更に覚醒水準を支配する脳幹網様体賦活系の起源と言われるCNVを用いて詳細な検討が必要であると述べた。
 第3章では,超音波がヒトに及ぼす覚醒水準について検討した。随伴陰性変動のCNVを測定すると共に,S1刺激前の2.56秒のデータからFz,Cz,Pz部位及び聴覚野の位置であるT3,T4,T5,T6部位から導出した背景脳波を重ねて評価した。その結果音圧変動な超音波の呈示によって早期CNVのみにおいてPz部位での減少が見られた。従って,超音波は脳の覚醒水準を低下させる可能性が示唆された。以上のことから超音波が脳の覚醒に及ぼす影響はごく限られた無音状態においてのみ発生する現象であると推察される。このことは通常の生活環境では様々な騒音が存在するため,現実的には超音波が脳の覚醒水準に影響を与える可能性は低いと考えられる。
 第4章では,本研究の総括を行い,以上の二つの実験結果から,超音波がヒトの覚醒水準に影響を及ぼし,超音波のみの条件においても検証されえた。最後に今後の問題点と展望を述べ結論とした。
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レコードID
報告番号
学位記番号
授与日(学位/助成/特許)
部局
登録日 2009.08.13
更新日 2020.10.06