<博士論文>
3次元顔表情の生成手法に関する研究 : 顔の特徴線と表情皺による形状の表現

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概要  本論文は,アーティスト達が持っている優れた観察力を顔表情の変化の把握に取り入れ,コンピュータの表現技術を組み合わせて様々な表情に対応できる顔の形状および顔の特徴を示す表情皺を生成する新しい手法を提案する。
 人間の顔は私達の様々な情報のやり取りを行うメディアとして重要な役割を担っている。コンピュータ空間においても,顔の表現はコミュニケーションツールや映像表現,マンマシンインターフェイスとして使われ...ており,その表現力としてリアリティのある表情豊かな顔が求められている。人間の顔は様々な要素を持っているため,コンピュータによる顔表現を行うために様々な視点からの方法があり,顔に関する研究は認知心理学や画像工学の分野などといった多様な分野において進められている。映像表現という視点から,CGI(Computer Generated Image)による顔の表現力に着目すると,表現力の豊かな顔モデルを生成することは未だに挑戦され続けている。近年では,精度の高い顔形状や動きを表現する技術が開発されており,顔を表現するための技術は強力で複雑なものに進化している。しかしながら,これらは表現力を高めるための問題解決の一部であって未だに多くの問題は残っている。このことは,人間の顔が生物学的に非常に複雑で,現在提案されているモデルではその複雑さを表現できていないことや,特にリアリティのあるモデルになるほど,少しでもCGIによる顔の表現に不自然さがあると違和感を感じてしまうということが理由となっていると考えられる。また,顔表現の手法は,基本的にはどのように制作者の要求に沿うように形状を定義するか,どのように実用上問題がない程度まで簡略化するのか,といった技術的なアプローチが多く,顔の豊かな表情性に着目した表現方法はあまり見られない。直感的に感性を豊かに表現するための手法は置き去りにされたままである。
 そこで,本論文ではコンピュータで顔を生き生きと表現するためには,技術的・心理学的なアプローチだけではなく,顔の豊かな表情性に着目して画家や彫刻家のような観察力をもとにした感性的な観点からのアプローチも必要であると考えた。画家や彫刻家たちの作り出す作品は動かなくても生き生きとした表情を感じ取ることができる。
 始めに顔形状を生成する手法としてどのような方法があるのかという現状をCGIの形状生成プロセスであるモデリングおよびアニメーションという観点から分類し,それらの利点と問題点についてまとめ,モデリングおよびアニメーションにおける課題を考察した。その結果,観察力と表現力という観点が生成手法には必要であると考え,これらの観点から1)顔表情の変化に伴う皮膚の動きを把握する方法,2)動きを考慮した形状の構築,3)表情の変化における表現力を高めるための生成手法という3つの課題を設定した。
 次に,モデリングとアニメーションの手法においてこれらの課題の解決を検討した。モデリングでは,リアリティのある顔形状の生成を行うためには顔表情の変化の視覚的な把握が必要だと考え,アーティストのための美術解剖学という視点からデルマトグラフと呼ばれる生体観察のためのラインパターンを定義し,表情の変化を視覚的に把握することを可能にした。次に,デジタイザによって作成された顔形状をもとに,ジオメトリラインと呼ぶ3次元の形状を構成するための線の要素を抽出した。これら2つの線のパターンを組み合わせて,顔形状の観察および豊かな動きを表現できる顔形状の生成のための3D Feature Linesを定義した。また,このラインパターンを用いて顔の表情の特徴を視覚的に捉え,また3次元形状のモデリングの基準としても使用し,顔形状の生成を行った。その結果,3D Feature Linesによる現実世界における観察結果を仮想世界における形状生成のプロセスでも使用できることを確認した。
 アニメーションにおいては,顔形状のアニメーションの表現力を高める一つの方法として,表情の変化時に皮膚に生じる表情皺に注目した。この表情皺を生成するために,解剖学的な顔の構造を骨格,仮想筋肉,顔形状という3層に単純化した。更に皺生成の過程を蛇腹のように変化する過程として視覚面から捉え,シンプルなアルゴリズムによる折り畳み式の皺生成手法を提案し,表情皺を生成する顔のモデルを構築した。また,このモデルを使用していくつかの表情と表情皺の生成を行った。この生成結果から,折畳式手法によって個人の皺の数,位置,大きさといった特徴が生成できることを確認した。
 最後に,本論文で提案したこれらの2つの手法により,モデリングにおいては視覚的な形状の把握とその観察結果に基づいた3次元の顔形状のデータ生成が,またアニメーションにおいては表情に合わせて変化する表情皺を付加することにより,観察や表現力といった感性的な視点から3次元の顔形状の生成を行う手法を構築した。
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詳細

レコードID
報告番号
学位記番号
授与日(学位/助成/特許)
部局
登録日 2009.08.13
更新日 2020.11.16

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