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概要 |
高酸素状態(hyperoxia)は,高圧環境への曝露や,高濃度の酸素ガスを吸入することによって誘引される特殊な生理状態である。hyperoxiaによる生理的な影響については,筋血流量の減少や,脳血流量の低下,網膜血流量の低下,前腕血流量の低下,心拍数の徐脈,平均動脈圧の低下,末梢血管抵抗の上昇など,様々な生理作用が報告されている。ただし,これらのメカニズムは不明な点が多く,推測の域を越えないよう...な議論しかなされていなかった。しかしながら,Rubanyi and Vanhoutte(1986)による研究成果は,これらの特異的な生理応答のメカニズムの解明に大きく貢献した。彼らの実験結果は,hyperoxiaにおける血管収縮効果が内皮由来血管拡張因子(endotelium-derived relaxing factor(s) : EDRF)であるNOが,hyperoxiaにおいて多量に発生したスーパーオキシド(superoxide : O2-)によって不活性化することに起因する2次的な血管拡張の抑制作用であることを示唆している。実際に,NOはO2-と強力に反応して,ペルオキシナイトライト(peroxynitrite : ONOO-)を生成することが明らかとなっている。従って,上記のNOの不活性化は,O2-がNOの消去剤様の働きをしたと解釈することができる。一方で,ONOO-は,強力な酸化機能を有し,DNAの構成物質であるグアノシン(guanosine : dG)を酸化することが知られているため,上記のNOの不活性化は,血管拡張の抑制効果だけではなく,DNA障害において重要な役割を果たすと考えられる。ここで,ごく最近になって,NOは皮膚血管拡張に対しても重要な役割を果たすことが知られるようになった。従って,hyperoxiaに伴うNOの不活性化は皮膚血管拡張反応に対しても抑制効果をもたらす可能性が考えられるが,これについて検討した先行研究は見当たらない。また,hyperoxiaにおける体温調節反応の特徴については不明な点が多い。以上から,本研究の目的を,hyperoxiaにおける体温調節機能特性の調査とした。また,先に述べたように,NOの不活性化に伴うDNA障害にも着目し,DNA損傷の指標である尿中8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-hydroxydeoxyguanosine ; 8-OHdG)の測定を行ない,hyperoxiaにおける体温調節反応の変化と尿中8-OHdGの関連性についても検討を行なった。
まず,基礎的な研究データの採取を目的として,常圧下での高濃度酸素環境における体温調節反応特性について調査した。この実験の結果,高濃度酸素環境における皮膚血流量の抑制効果を認めたが,発汗反応についてはhyperoxiaの影響が見られなかった。発汗反応に対してhyperoxiaの影響が認められなかったことについては,本実験における被験者の発汗状態が軽度であったためであると考えられた。次に,安静時の体温調節反応に対する純酸素ガス吸入の影響を検討する実験を行なった。この結果,純酸素ガスを吸入することによって,先行研究で多く観察されている心拍数の徐脈や,前腕血流量の減少を認めたが,皮膚血流量には顕著な影響は認められなかった。これは,安静時の皮膚血流量に対するNOの寄与が小さいことに由来する結果であると考えられた。そこで,身体加温時に酸素濃度の異なる数種の混合ガスを吸入する実験を行なったところ,高濃度の酸素を含む混合ガスを吸入することによって,皮膚温の動的な減少を認めた。これは本研究の高濃度酸素環境実験の結果を支持する結果である。しかし,それらの生理反応に対して酸素濃度への依存性は認められなかった。一方で,混合ガス吸入後の平均皮膚温の低下量と尿中8-OHdGの間に有意な府の相関関係が認められた(r=-0.45, p<0.01)。これは,NOの不活性化に伴う皮膚血流量の抑制と,DNA障害の関連を裏付ける結果であると考えられた。
以上から,hyperoxiaにおいては皮膚血流量に対する抑制効果が生じることが明らかとなった。また,NOの不活性化に伴って生じるONOO-の生成が,DNAの構成物質であるdGの酸化を促進するため,NOの不活性化という生理作用が生体障害に対しても重要な意味を持つことが明らかとなった。続きを見る
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目次 |
もくじ
第一章 序論
第二章 高濃度酸素環境下における下腿温浴時の体温調節反応特性の検討
第三章 中立温度環境下における純酸素ガス吸入時の体温調節反応特性の検討
第四章 下腿温浴時における高濃度酸素ガス吸入に伴なう体温調節反応特性の検討
第五章 総括
引用文献
謝辞
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