<博士論文>
音響心理実験における閾値測定の効率に関する研究

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概要 心理物理学において、心理物理定数として、閾値、弁別閾、等価値などがある。このような測定値は、感覚や知覚の特性と構造を知るうえで重要であることはよく知られている。本論文は、閾値測定の効率化について、検討を行ったのもである。閾値測定をする場合、古典的な心理測定法である調整法、極限法や恒常法から、短時間で測定を行う目的で開発された適応法がある。適応法は、実験者側の視点での測定用の効率、つまり、シュミレー...ションの結果で効率(真値からのずれの平均値及びそのばらつきと試行数で評価し、それらの値が共に小さいほど効率が良いと定義する)を判断するという発想で開発された。効率の良い測定法を用いて測定を行うことは重要であるが、被験者側からの視点での測定のやり易さ、つまり、被験者の負担も考慮すべき問題である。その理由として、最近の測定法の研究の流れとして、最尤推定法を用いる適応法が主流となっている。しかしこの方法は主に被験者の閾値付近のみを集中的に測定を行うため、被験者は相当な集中力を必要とし、作業が非常に困難であることが予想できる。もし、測定の途中で集中力がなくなると、データが安定しなくなる可能性もあり、逆に実験では効率が悪くなることも考えられる。 これらのことを考慮に入れ、まず、従来からあるいくつかの測定法で効率及び被験者の負担などの観点から検討を行った。その結果、他の測定法に比べ、効率が良く、かつ、被験者の負担が少ないという測定法はなかった。 本研究の目的は、被験者の負担が少なく、かつ、効率の良い測定法を開発することである。そこで、新しくRASS法(Rapid Adjustment of Step Size Method)を提案し、その理論及び特徴を述べ、最後にシミュレーションと聴取実験で被験者の負担を含めた総合的な効率を検討した。  第1章では、本研究の背景及び目的を述べた。   第2章では、従来からある恒常法と適応法(PEST法、Best PEST法)の効率を振幅変調音の変調検知閾実験で比較した。聴取訓練を受けた被験者群では、測定法の違いによる閾値の差はなく、実験効率も同じであることが分かった。また、被験者毎に好みの測定法が違うことが分かった。聴取訓練を受けていない被験者群でも、測定法の違いによる閾値の差はなく、実験効率は同じであることが分かった。しかし、恒常法は適応法と比較すると、被験者毎の閾値がセッション間で大きく変動する被験者が多く、効率が悪いことが分かった。また、PEST法は、測定時間が他の測定法よりも長くなり、効率が悪く、Best PEST法の効率がよいことが分かった。一方、内観報告では、PEST法の被験者が他の測定法の被験者より、疲労感を少なく感じていることが分かった。  第3章では、Best PEST法より効率が良く、PEST法より被験者の負担が少ないRASS法(Rapid Adjustment of Step Size Method)を新たに開発し、その理論について述べた。RASS法は、刺激レベルの変化方法のアルゴリズムが非常に単純であり、測定の処理時間が速い。刺激レベルの変化がチャンスレベル付近では、起こりやすく、比較的分かりやすい刺激レベルが出やすくなっている。また、心理測定関数をロジスティック関数と仮定し、その傾きを測定値を使用することで、測定条件のパラメータが簡単に決定できるという利点がある。  第4章では、モンテ・カルロ・シミュレーションで適応法(PEST法、Best PEST法、RASS法)の効率を調べた。刺激レンジが狭い場合には、Best PEST法の効率が良いが、刺激レンジが広くなるにつれ、RASS法の効率が良くなることが分かった。このことは、実験を行う上で、閾値上の刺激レベルなら、どの刺激レベルから測定を開始しても良いという利点がある。PEST法は、測定に要する平均試行数の標準偏差が大きな値を取るが、RASS法はPEST法の約半分以下の標準偏差値を取る。従って、RASS法は、測定時間が予測しやすく、実験計画が立てやすいことが分かった。そして、robustな条件の時にRASS法が、最も効率が良いことが分かった。  第5章では、第2章と同じ変調検知閾実験を行い、3種類の適応法(PEST法、Best PEST法、RASS法)で効率を比較した。聴取訓練を受けた被験者群では、測定法の違いによる閾値の差はなく、実験効率も同じであることが分かった。総合的な判断をすると、比較的実験計画も立てやすく、内観報告からも悪い評価がなかったRASS法が最適であることが分かった。聴取訓練を受けていない被験者群では、測定法毎の被験者個人の閾値にばらつきがあったため、等分散の検定で閾値に有意な差があったが、被験者個人の閾値推移の分散は同じであることが分かった。内観報告の結果から、最も評価が良かったのはRASS法である。そのため、総合的な評価をするとRASS法が聴取訓練を受けていない被験者にも適していることが分かった。  本論文で提案したRASS法は、他の適応法と比較して、シミュレーションで効率が良く、また、聴取実験の結果からも、被験者の負担が少なく、閾値測定に最も適していることが分かった。続きを見る
目次 目次 1章 序論 2章 恒常法と適応法の効率比較 3章 Rapid Adjustment of Step Size Method(RASS法) 4章 モンテ・カルロ・シミュレーションによる適応法の効率比較 5章 適応法の効率比較実験 6章 まとめ 謝辞 参考文献 付録 A 第3章のシミュレーション結果

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登録日 2013.07.09
更新日 2023.11.21

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