<博士論文>
照明光の分光分布が覚醒水準に及ぼす影響に関する研究

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概要 我々をとりまく様々な環境要因のひとつに照明がある。この照明は、以前は明るさだけが求められてきた。しかし、技術の進歩により充分な明るさが得られる現在では、単に明るいだけでなく快適な照明が望まれる。その照明は,量と質の二つの要素から見ることができる。室内照明を考えるうえで問題となるのは、前者が照度及び輝度、後者が光源色、演色性である。照度は、光を受ける面の明るさの程度を表し、輝度は、光を受ける面をある...方向から見た明るさの程度を表す。照度及び輝度は、これまで作業能率や疲労の面から様々に検討されており、現在では作業の環境や内容に応じて細かく規定されている。光源色は、光源の放つ光色のことで一般照明において色温度(K)で表される。色温度とは、完全黒体を加熱した際に発せられる光色をその温度で表現したものである。7500Kの高色温度は、涼しげな青っぽい光色を示し、3000Kの低色温度は、暖かみのある赤っぽい光色を示す。演色性は、光が物体色の見え方に及ぼす影響のことで、その程度は平均演色評価数(Ra)で表される。Raは、最高値が100を示し、この場合基準となる光源と対象となる光源のもとでみた物体色の見え方が一致することを示す。光源の色温度及び演色性は、作業の環境や内容さらには個人の好みなどにより設定が異なる。このため、照度のような設定基準はなく、さらには充分な検討もされていない。そのようななか、照明の光源色は、これまで光源の色温度のみを基準に設定されてきた。しかし、現在の照明は、様々な演色性さらには色温度では表せない光色などがあり、照明の光源色の違いを光源の色温度のみの属性だけでは表せない。本来、光色は、光の波長構成で定まり、その波長構成は分光分布で示される。このような点から、照明の光色は、光源の色温度ではなく光源の分光分布そのものへの考慮が必要であると考えた。光源の分光分布に関する過去の知見によると、単一波長形と三波長形といった光源の分光分布の違いは、覚醒水準に影響すると示されている。我々が身近に使用している様々な色温度及び演色性の光源も異なる分光分布を示す。したがって、快適な照明環境を構築するには、光源の分光分布が覚醒水準に及ぼす影響について検証し、明かにする必要があると考えた。そこで、光源の分光分布の及ぼす効果を探究することを目的に、光源の色温度及び演色性の違いが覚醒水準に及ぼす影響について実験した。さらに、その結果をもとに光源の分光分布と覚醒水準の関係について検討を加えた。  実験では、色温度及び演色性の異なる蛍光灯を用い、これら光源の分光分布の違いが覚醒水準に及ぼす影響について検討した。使用したRa88の蛍光灯は、三つの狭帯域に発光スペクトルをもつ。この蛍光灯において、高色温度の光源は、低色温度の光源に比べ高い覚醒水準を誘発した。一方、Ra72-75及びRa95-99の蛍光灯は、広帯域に発光スペクトルをもつ。これらの蛍光灯において、色温度の違いは覚醒水準に影響しなかった。さらに、広帯域波長形蛍光灯において、Ra95-99の低色温度の光源は、Ra72-75の低色温度の光源に比べ高い覚醒水準を誘発した。Ra95-99の光源は、Ra72-75の光源に比べ各色温度で短波長帯域のエネルギー放射量が少なく、長波長帯域のエネルギー放射量が多い分光分布を示す。これらの結果は、光源の分光分布の違いが覚醒水準に影響することを示す。したがって、照明の光色は、光源の分光分布の観点から検討する必要があると示唆された。 以上の結果をもとに、光源の分光分布と覚醒水準の関係について検討した。分光分布は、光色の違いを正確に表すが容易に表現できない。このことから、分光分布の違いを簡便に表せる新たな指標が必要と考えた。そこで、光源の分光分布を長波長帯域のエネルギー放射量(L)に対する短波長帯域のエネルギー放射量(S)の比率を用いて表すことを試みた。このエネルギー比率(S/L比)の各波長帯域は、以下に示す三つの条件を設けてその範囲を設定した。それらは、1)三波長形光源における三つの発光スペクトルのピークである450nm、540nm、610nmを区分できること。2)S/L比が光源の色温度及び演色性の違いを表せること。3)S/L比と覚醒水準の関係が実験で測定したFz及びCz部位のCNV及びα波率で同様の関係を示すことを条件とした。両帯域の波長範囲は、これらの条件をもとに選出した。その結果、光源の分光分布の新たな指標は、600nmから780nmのエネルギー放射量に対する380nmから500nmのエネルギー放射量の比率とした。このS/L比を用いて光源の分光分布と覚醒水準の関係を求めた結果、覚醒水準は、S/L比の増加に伴い三相性の変化を示した。このことは、覚醒水準が光の物理的特性である光源の分光分布に依存することを示唆する。 以上の研究により、光源の分光分布は、覚醒水準に影響する要因であることが明らかになった。さらに、その分光分布を示すS/L比は、覚醒水準と曲線的な関係を示した。これは、照明の光色により誘発される覚醒水準が光源の分光分布といった光の物理的特性に依存することを示唆する。つまり、照明の光色の効果は、光の物理的特性が基盤にあると示唆される。したがって、照明環境は、光源の分光分布を考慮することでより快適になると示された。続きを見る
目次 目次 第Ⅰ章 緒論 第Ⅱ章 光源の色温度及び演色性の違いが覚醒水準に及ぼす影響 第Ⅲ章 光源の分光分布と覚醒水準の関係についての考察 第Ⅳ章 総括 謝辞 引用文献 付録

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登録日 2013.07.09
更新日 2023.11.21

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