注記 |
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作物は葉による同化物質と根からの養・水分を用いて生長するが,その際余剰の物質は貯蔵物質としてそれぞれの器官に蓄積する.これらの貯蔵物質を利用しようとする作物の多収のためには,収穫期により多くの貯蔵物質が蓄積するような生育条件を明確にすることがのぞましい.貯蔵物質の多寡には作物個々の遺伝的性質が関係するとともに,さらには環境要素が極めて大きな役割を果していることはいうまでもない.炭水化物は作物の生長および貯蔵に使用される物質の主な物質であるが,この炭水化物は先ず葉における光合成作用により作り出され,次に生長および貯蔵の盛んな組織へ転流し,さらに他質物に転換されて生長および貯蔵に用いられる.また,作物の栄養生長から生殖生長への転換に際しては,一般に窒素化合物と炭水化物とが拮抗的に用いられるとされている.従つて,炭水化物利用を効果的にするためには最終結果としての炭水化物の蓄積のみにとどまらず,光合成および転流をもあわせて研究することが必要であり,さらに,生長と蓄積との間の炭水化物の分配関係をも把握する必要がある.植物体内では葉で生育された糖その他の生産物は節管を通つて他の諸器官に転流する.これらの物質の転流速度,転流量および転流方向を決定するのは物質を合成し供給する組織とそれを消費または貯蔵する組織との間の糖の濃度勾配が主因であり,その他に温度,酸素,水および生長物質などが関係する.温度は作物の生育を始め,多くの生理作用に最も大きく作用する環境要因とされている.物質の転流に関しても温度との関係を調べた研究は比較的多いが,その最適温度については種々の意見がある.Went(1944)は,トマトでの糖の転流は26.5℃では少なく,温度の低下とともに転流は増加し,8℃で最も多くなることを明らかにしている.Went and Engelsberg(1946)はトマトを暗所に12時間,8°,17°および26℃ に保ち,植物体各部分の含有量を測定し,糖転流率は低温度の場合ほどよ蔗糖いことを明らかにしている.このように糖の転流は低温度においてよいとした報告のほかに,20℃ ~30℃ の範囲において最もよいとした報告がある.Hewitt and Curtis(1948)は4°,10°,20°,30°および40℃ の暗所に13時間おいたトマト,菜豆およびトウワタが転流と呼吸によつて葉から失う乾物量および炭水化物量を測定した.その結果,葉からの転流は温度上昇とともに増加し,20°および30℃ の範囲で最大となることを明らかにしている.また,低温の場合,根に糖蓄積が多いのは転流が多いためでなくて,呼吸や生長に用いられる量が少ないためであると論じている.Schumacher(1933)は簾管での物質移動の研究に螢光物質のfiuoresceinを使用し,植物全体が20°から30℃ に保たれた時には20~ 至30cm/hr.の速さで移動する.しかし,1°から4℃ に保たれた時には1~3cm/hr.の速さに低下することを明らかにしている.上述のように,物質転流の最適温度に関しては未だに意見が一致していないが,温度が物質の転流量および速度に関係することは明らかである.さらに温度が転流方向にも影響をおよぼすのではないかと考えられるが,西内(1945)は,溶質は高温の部分から低温の部分に移動しやすく,水分は同時に逆の方向に移動しやすくなり,その移動は温度傾斜の大きいほど速やかであるとの温度系効果説を出している.従つて,温度は転流量,転流速度,さらに転流方向にも影響すると考えられる.しかし転流の適温,転流方向など未解決の点がみられる.本研究においては甘藷を供試し同化物質転流の最適温度を明らかにするとともに,温度傾斜と転流方向との関係を追求する目的で地温の影響を気温のそれと同時に実験した。
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