1. 本研究は陸稻及び蕎麥を, 保水力を異にせる土壤にてポツト栽培し, 出來るだけ自然給水状態のままにし置き, その生長程度と土壤内含水量及び水分供給力との關係を知らんとしたものである。2. 本試驗を行ふに先だち, 保水力を異にする種々の土壤につき, 水分飽和時及び限界凋麥點に於ける含水量・水分供給力を測定し, 更に土壤内水分の減退に伴ふ水分供給力の變化模樣につき, 豫備的調査を行ひ, 以て土壤の水分供給力の實相を知る上の補助とした。3. 培養に用ひた土壤は砂土と粘土及び其混合土であつて, 保水力を異にした五種土壤であつた。培養試驗は之を無施肥區と施肥區とに別ち, 施肥による水分關係の變化をも併せ攻究することにした。4. 培養經過中, 種々の水漏状態の時期を見計らひて, 測定した培養土壤中の含水量及び水分供給力の値は, 保水力高き土壤程大であり, その變異程度は施肥唾土壤に於て割合に小く, 無施肥區土壤に於て著しく大であつた。而して水分供給力の變異度は, 何れの場合に於ても含水量の變異度に比して明かに小であつた。5. 培養植物の生長程度(草丈・生量・乾量から見た)は, 何れの材料に於ても施肥により亢進したこと言ふまでもないが, 土壤の水濕状態の相違に伴ふ生長程度の有樣は, 無施肥區と施肥區とにより相違あるを示し, 施肥區では材料植物の如何に拘らず, 常に保水力高き土壤程發育を利する結果となり, 無施肥區では, 生長早期にあつた陸稻に於ける例外的結果を除去せ發育ば, 一般に保水力高き土壤に於て生長低下するを示し, 保水力の最も低き土壤に於ても亦, 生長に不利なるを示した。6. 無施肥區の保水力高き土壤に於ける生長不良の原因は, 主として多濕による惡影響によるものの如く, 施肥區の保水力高き土壤に於ける生長良好なるは, 主として施肥に由來する生長亢進のため, 植物體の水分需要量の増大のために,過漏による惡影響の解消するのみならず, 更に却て水分供給關係を良好ならしめるによると解せられる。7. 無施肥又は施肥の別により, 土壤の保水力又は水分保留力に伴ふ土壤内含水量及び水分供給力の増大は,植物體の發育生長に異つた結果を招來し, 或は良條件となり或は不良條件となるのであるが, 何れにしても, 土壤内水濕状態の相違による植物體生長程度の相違は, その程度に於て含水量の相違程度程著大ならず, 又水分供給力の相違程度にも及ぼないが, 何れかと言へば前者によりも後者により接近してゐるのを見る。8. 植物瞳の生長程度と土壤内水濕状態との關係は, 理論上含水量によりて律せられるよりも, 水分供給力によりて律せられる點大なる筈であるが, この理論は本研究の成績によりて, 如實に肯定證明された譯である。
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