<博士論文>
味覚情報の弁別機構とその分子基盤

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概要 末梢の味覚受容器である味蕾は、さまざまな形態的、機能的特徴を持つ50~100個の味細胞から成り、これらが味覚(5基本味:甘味、うま味、苦味、塩味、酸味)の受容に関与する。味細胞は形態的にⅠ~Ⅳ型細胞に分類され、そのうちⅡ型細胞は甘味、うま味、または苦味の受容体候補分子を発現し、Ⅲ型細胞は酸味受容体候補分子を発現することが報告されている。よってⅡ型およびⅢ型細胞は、味覚受容細胞として機能すると考えら...れるが、その応答特性や味覚応答に関与する分子群の発現パターンには不明な点も多い。本研究では、Ⅱ型細胞が発現するGustducin、Ⅲ型細胞が発現するGAD67、甘味・うま味の受容体コンポーネントであるT1R3を指標として、これらを発現する味細胞の応答特性と味覚応答に関与する分子群の発現パターンを明らかとすることを目的とした。1)Gustducin発現細胞が緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現する遺伝子改変マウス(Gustducin-GFPマウス)を用い、Gustducin-GFP細胞の基本味刺激に対する応答を調べたところ、これらの細胞には甘味、うま味、または苦味に対し高い応答特異性を示す3群が存在した。一方、GAD67発現細胞がGFPを発現する遺伝子改変マウス(GAD67-GFPマウス)を用い、GAD67-GFP細胞の基本味刺激への応答を調べたところ、酸味刺激に特異的応答を示す細胞と多種の味刺激に応答を示す細胞の2群が存在した。以上の結果は、Gustducin発現細胞(Ⅱ型細胞)は、甘味、うま味、または苦味受容細胞として、GAD67発現細胞(Ⅲ型細胞)は酸味受容細胞として機能し、味特異的な情報を味神経に伝え、多種の味刺激に応答を示すGAD67発現細胞は、味非特異的な情報を味神経線維に伝える可能性を示唆する。2) Gustducin-GFPマウスを用い茸状乳頭(FF)および有郭乳頭(CV)味蕾に存在するGustducin-GFP細胞(FF: 32個、CV: 25個)を採取し、Single Cell RT-PCRにより16種のGαサブユニットの発現を探索すると、Gα11(FF: 53%、CV: 73%) 、Gα14(FF: 31%、CV: 73%)、Gαi2(FF: 78%、CV: 96%) 、Gαq(FF: 48%、CV: 68%)、Gαs(FF: 72%、CV: 96%)の発現頻度が高かった。また、T1R3-GFP細胞がGFPを発現する遺伝子改変マウス(T1R3-GFP)を用い、T1R3-GFP細胞(FF: 9個、CV: 21個)におけるこれらのGαの発現を探索した場合にも、発現頻度が高かった[Gα-gust(FF: 100%、CV: 19%)、Gα11(FF: 33.3%、CV: 57.1% )、Gα14(FF:11.1%、CV: 81%)、Gαi2(FF: 66.7%、CV: 71.4%)、Gαq(FF: 66.7%、CV: 81%)、Gαs(FF: 88.9%、CV: 85.7%)]。以上の結果は、Gustducin以外にもGα11、Gα14、Gαi2、Gαs、Gαqが甘味、うま味、苦味受容細胞における細胞内情報伝達に関与する可能性を示唆する。また、GAD67-GFPマウスからGAD67-GFP細胞(FF: 28個、CV: 25個)を採取し、Single Cell RT-PCRにより酸味受容体候補遺伝子(ASICs、HCNs、PKD1L3/2L1、TRPV1) の発現解析を行った結果、PKD2L1(FF: 64%、CV: 28%)、PKD1L3(FF: 0%、100%)、HCN1(FF: 71.4%、CV: 12%)、HCN4(FF: 32.0%、CV: 4%)の発現頻度が高かった。これらの分子がGAD67発現細胞において酸味受容に関わる分子として機能する可能性を示唆する。以上、本研究の結果から、味蕾内でⅡ型細胞が甘味、うま味または苦味の受容を、Ⅲ型細胞が酸味の受容を担い、これらの味覚情報の弁別に重要な役割を果たすこと、また、その受容機構には複数の受容体・細胞内情報伝達経路が関与することが示唆された。続きを見る

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登録日 2013.07.10
更新日 2023.11.21