概要 |
PRIP(phospholipase C-related, but catalytically inactive protein, PRIP-1 と PRIP-2 の2つの型が存在)はイノシトール1,4,5-三リン酸と結合するタンパク質として発見された新規分子である。本分子の機能を解明するために PRIP 遺伝子欠損マウス(KO)マウスを作製して表現型を観察したところ、KO マウスのカップルでは出...産回数ならびに一度の出産仔数が少ないことに気づいた。雌雄を入れ替えてカップルを作るという実験で、メスにその原因があることが分かった。そこで発情周期を観察したら、KO マウスでは発情期が長かった。次いで、連続する5?6日間にわたってゴナドトロピンの血中濃度を測定したところ卵胞形成ホルモン、黄体ホルモンいずれも恒常的に高値を呈し、明瞭な黄体ホルモンサージなどは観察されなかった。摘出した下垂体前葉を用いて、刺激によるゴナドトロピン分泌を測定したら KO マウスからのものは分泌量が多かった。しかし、ゴナドトロピン量に呼応して分泌量が増加するはずのエストロゲンやプロゲステロンといった性ステロイドホルモンは KO マウスではむしろ低値を示した。メスに観察された生殖機能の異常の詳細な機構は現時点では不明であるが、恒常的にゴナドトロピンが高値であることが一因であろう。この遺伝子欠損マウスの示したゴナドトロピンや性ステロイドホルモンの分泌異常は閉経後女性などに見られるホルモン・アンバランスに傾向が類似しており、骨粗鬆症といった骨組織の異常が予測された。したがって、KO マウスの骨組織について解析した。6,12ヶ月齢のメスより大腿骨を摘出し骨状態の3次元計測をしたところ、予測とは反対にいずれの月齢でも KO マウスにおける骨密度および海綿骨の骨量が増加していた。この増加がホルモンの影響によるものかを調べるために、8週齢のマウスを用いて卵巣を摘出し、8週間後に大腿骨の3次元計測を行った。野生型では著明な骨量の減少が見られたが、KO マウスでは明瞭な変化は認められなかった。次に、8週齢マウスの大腿骨の形態計測を行ったところ、KO マウスにおいて骨吸収パラメーターがやや亢進していたが、統計的有意を示す程ではなかった。一方、骨形成パラメーターは KO マウスで著明な亢進が見られた。そこで、新生マウスの頭蓋骨より調製した骨芽細胞の初代培養を用いて解析を行なったところ、KO マウスから調製したものでは骨芽細胞の分化能が高く、また、種々の骨芽細胞分化マーカー遺伝子の早期の発現を認めた。更に、Smad1/5/8 のリン酸化について検討したところ、KO マウスからのものでリン酸化レベルの延長を観察した。これらのことから、KO マウスでは骨形成が促進していると考えられた。この現象はホルモンの直接的な影響を受けていないことが示唆され、PRIP 自身が直接的に骨形成の制御を抑制していることが示唆された。続きを見る
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