<博士論文>
末梢味覚器における味情報の伝達メカニズムについての研究

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概要 食物の味の情報は味細胞で受容され、味神経を経て、脳へと伝えられる。しかし、その味情報が味細胞から味神経へどのようなメカニズムで伝達されているのかについては、まだ多くが不明である。味細胞は形態学的にⅠ、Ⅱ、Ⅲ型および基底細胞(Ⅳ型)に分類される。これらのうち、Ⅱ型細胞は甘味、うま味、苦味の受容体およびその下流の情報伝達に関与する分子群を発現し、Ⅲ型細胞は酸味受容体候補遺伝子を発現することから、これら...の細胞が甘味、うま味、苦味、酸味の受容に関与すると考えられる。しかし、味細胞から味神経線維へ情報を伝えるため必要であると考えられるシナプス構造はⅢ型細胞には見られるが、Ⅱ型細胞には見られない。よって、甘味、うま味、苦味の受容細胞と考えられるⅡ型細胞がどのように味神経へ情報を伝えているのかは大きな謎であった。近年、アデノシン三リン酸(adenosine triphosphate:ATP)が味細胞-味神経間の主要な神経伝達物質として注目され、ATP はⅡ型細胞からヘミチャネル(connexin43 およびpannexin1)を介して放出される可能性が示唆されている。そこで本研究では、味応答により生じる味細胞からのATP 放出のメカニズムについて解析した。その結果、Ⅱ型細胞では甘味、苦味、うま味刺激に対する応答とそれに伴うATP 放出が検出されたが、Ⅲ型細胞では酸味、塩味刺激に対する応答が見られたにもかかわらず、ATP は検出されなかった。Ⅱ型細胞からのATP 放出は発火頻度に依存して増大し、pannexin1 の阻害剤カルベノキソロン(carbenoxolone:CBX)で抑制されたが、connexin43 阻害剤GAP26 とGAP27 を投与しても変化は見られなかった。また、テトロドトキシン(tetrodotoxin:TTX)投与により活動電位を抑制するとⅡ型細胞からのATP 放出量が約3 分の1 に減?した。これらの結果から、味刺激により生じた活動電位によりⅡ型細胞からのATP 放出は増強され、放出されたATP はⅡ型細胞から味神経線維への情報伝達物質として機能する可能性が考えられる。一方、Ⅲ型細胞はγ-アミノ酪酸(Gamma-aminobutyric acid:GABA)の合成酵素であるグルタミン酸脱炭酸酵素67(glutamate decarboxylase:GAD67 またはGAD1)を持ち、味蕾内にはGABAやそのトランスポーターや受容体の発現が見られるが、その生理機能は明らかとなっていない。本研究では、GABA の味蕾内での作用メカニズムの解明を試みた。その結果、有郭乳頭及び茸状乳頭味細胞においての発現が検出された。また、基底外側膜側へのGABA の投与により、自発発火頻度が増加する細胞や減?する細胞、甘味応答が増加する細胞や、苦味応答が減?する細胞が存在することを発見した。さらに、GABAA、GABAB 受容体サブユニット、およびGABA 応答を制御する2 種類のCl-トランスポーターのK+-Cl-cotransporter(KCC2)、Na+-K+-2Cl-cotransporter(NKCC1)の発現が認められた。これらの結果から、GABA が味細胞の興奮性に影響を与え、味蕾内での味覚情報の修飾に関与する可能性が示唆された。以上の結果から、ATP はⅡ型細胞から放出され、味神経への情報伝達に関与する可能性が、また、GABA はⅡ型及びⅢ型細胞において味覚修飾に関与する可能性が示唆された。続きを見る

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授与日(学位/助成/特許)
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登録日 2013.07.10
更新日 2023.11.21