<学術雑誌論文>
人工血管の歩み

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概要 この数年(いや,この40年ほど?)では,特に臨床上,際だった進歩は見られなかったといってよいほど,人工血管の研究開発は停滞している.この大きな問題の一つは,やはり,大口径人工血管といってもまだ問題(特に長期の開存に難)があり,特にヒトへの適応では,内皮細胞の増殖はほとんど観察されないのが現状である.この場合,動物実験との差が非常に大きいことが指摘されている.人工血管は,生体血管と比較して格段に内皮...組織化が遅れるのが大きなネックになっている.これは最近,出版された"TissueEngineeringofVascularProstheticGrafts"の中でZilla等がまとめている.現在でも,生体血管は血管外科医の第一選択となっている.そこで,多くの不都合(例えばサイズが合わない,長さが足りない,血管が脆弱などの欠点がある)があることが指摘されている.そのために,臨床に適応できる人工血管の開発のために多くの努力が傾倒された.特に内径4ミリ以下の小口径人工血管の開発は心臓血管外科医だけでなく,整形外科,移植外科からも大きな期待が寄せられている.しかし,現状では,材料的にも,ポリ4フッ化エチレン樹脂(いわゆるテフロン)とポリエステル繊維(いわゆるダクロン)以外に見るべきものはない.今まで,この時間的(つまり耐久性)な検討が不足していたのではないかと思われるところが多いのである.松田は,最近,日本の人工血管研究をまとめたレビューを出したが,この中に大体,研究開発が網羅されている.図1に人工血管の問題点を示した.要するに人工血管はこれらの問題点を克服するものでなくてはならないわけであり,そのための材料の選択は重要である.テフロンやポリエステル以外に,材料的にはウレタンが研究開発でも,また,臨床用でも開発されてきた.合成高分子材料として,唯一,弾性的性質を備曇ているウレタンは非堂に蛛力のある材料である.特に,動脈への適応には大きな期待が寄せられてきた.しかもテフロンよりも,細胞組織の接着,内皮組織化はあきらかに優れていた.しかし,今後,ウレタンが人工血管として使用される可能性はあまりないといってよいだろう.それは,ウレタンの生体内分解性,劣化が克服できないこと,またその結果,産生される分解物に生体適合性がないこと,更に,古くは今井の指摘した腫瘍誘起性が,まだ現在に至るまで否定されていないからである.ただ,短期の透析用シャントに適応する場合は他に見られない,注射針貫通に数回以上,耐える機能を持っている.今後は,このようなウレタンの特性を活かした応用が考えられるべきであろう.また更に,人工血管に求められるものとして,図2と図3に示したように,各段階の生体反応に対応したものでなくてはならないということがある.実は,この図2と図3の生体反応に対応した材料設計というのは血液の流れる人工臓器のほとんどすべてに,当てはまる基本概念である.このような要求に合成人工血管では応えることが出来ないのではないかと,この20年ほど,内皮細胞を用いたハイブリッド型人工血管ほど,研究対象にもてはやされたものはない.確かに,生体の血管に限りなく近い人工血管の創製に成功したように感じる.しかし,今度は移植になるわけで,患者の細胞組織を使用しなければどうにもならないことは最初から分かっていたことである.血管循環系の疾患を持つ患者はそもそも,この細胞組織の提供が難しいケースが多いことも容易に想像できるのである.しかし,アメリカのいくつかのベンチャー企業は果敢に,このハイブリッド型人工血管に挑んだ.結果は,残念ながら,このような危惧を覆すものはでなかった.これらの危うさは,筏も指摘しているところである.細胞利用は大きな夢を抱かせるが,実際のビジネスには多くの障害が現在もあり,これを克服するのは至難と言わざるを得ない.産総研テイッシュエンジニアリング研究センターでは,骨髄細胞の利用を検討し,日夜,努力を重ねている.自己骨髄細胞を利用することにより,従来の人工関節の脱落もかなり,回避できるようであり,この分野の大きな希望を抱かせるものである.しかし,これが,将来,企業べースに乗れるものかというとかなり,難しいのではなかろうか.自動化や省力化が出来にくい部分がかなりあるからである.多分,これは他のすべての細胞利用の医療デバイスに共通のものであろう.ここで,企業べースというのは,従来型を意味しているわけで,つまり,均一で安定した製品の大量生産により,販売ルートにのるタイプのものである.ただ,このコンセプトでなく,患者一人一人に対応した,いわゆるテーラーメードの治療,対応が出来ることも将来の企業べースの話であろう.しかし,その場合でも,いつも,均一で安定した性能の製品の出荷,提供は常に求められるものであろう.そこで,まとめてみると次の視点が人工血管の開発に重要ではなかろうかと思われる. 1)とにかく長期の安定性一開存が必須であること.この長期とは,やはり,数年以上といってよいだろう.2)人工血管の使命は,生体血管と比較して,やはりレディーメードに提供できる点である.調整に時間がかかる,あるいは滅菌が出来なければ人工血管としての意味がないといってよいだろう.以上の点は,これまでの人工血管の開発をしてきた研究者の一人の独白と考えて頂きたい.そこで,遠い未来は別として近い将来,この数年で出来そうな可能性を敢えていうならば,下記のことがいえるであろう.1)材料は,ポリ4フッ化エチレン樹脂(いわゆるテフロン)かポリエステル繊維(いわゆるダクロン)を用いる.あるいは,生体内分解性ポリマーであるPGA,PLA(この場合,分解物が無毒であることが条件)を用いる.ただし,生体内分解性ポリマーを用いる場合は,テフロンあるいはダクロンとの組み合わせが望ましい.2)上記の材料の表面処理により生体適合性,とくに内皮組織化を向上させ,抗血栓性にもすぐれた材料で,表面被覆する.生体内分解性であることが必要.3)細胞あるいは組織は用いないが,細胞組織を誘導する成長因子,またはRDG等の活性物質は用いたい.4)滅菌はEOG,オートクレープ,γ線を用いることができること.5)細胞,組織を用いるならば,レシピエントの骨髄細胞,内皮前駆細胞を利用する.これは,別のところで述べさせて頂くが,実用化(臨床応用)にはかなり難しいハードルが初めからある.最初から,筆者の考えを述べさせて頂いたが,一方,これまでの研究開発がどのようになされてきたかを紹介したい.また,人工血管の研究開発では,バイオマテリアル,特にその表面修飾が重要である.それについて述べ,次に,大口径人工血管,そして,小口径人工血管へのいろいろな試みの研究開発について概要を述べる.バイオマテリアルといっても,材料そのものの構造体としての材料は,あまり大きな進歩はこの半世紀ないといってよいが,一方,表面修飾は20世紀末に大きな進歩を遂げ,また,21世紀になっても,ますますその重要性は増してきている.特に,医用材料への応用の場合,表面の性質が重要である場合が多く,抗血栓性材料や細胞接着性材料のいろいろな応用開発がなされてきた.ここで,バイオマテリアルの表面修飾には二つのアプローチがある.ひとつは,生体にできるだけ近づける材料を用いる方法である.他の方法は,まったく生体とは異なる材料を用いて,機能のみ生体と同じものを備える方法である.これらの二つの方法は,まったく異なるアプローチのように見えるが,実際にはこれらを組み合わせて用いる場合が多い.このバイオマテリアルの表面修飾をまとめると図4のようになる.(1)の材料表面への生体適合性材料の被覆が考えられる.方法は,化学的なグラフト重合から,単なる塗布(これが一番多い),また,物理的な,プラズマ,レーザー,あるいは最近注目されている放射光や放射線による方法などがある.また,組織適合性の高いコラーゲンやゼラチンなどの組織適合性の良い生体高分子を表面修飾する方法もある.続きを見る

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登録日 2012.06.04
更新日 2021.07.28

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