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農作物群落内のCO_2濃度を測定した結果によると,作物生育が旺盛な時期に光合成の盛んな部位の気相のCO_2濃度はしばしば著しく低下することが明らかにされている.生育の旺盛な時期のCO_2濃度の低下は光合成速度の低下を来たし,乾物生産の増加を抑える.とくに米,麦のように光呼吸速度の大きい作物では,その影響は大きいと考えられる.実際農業において,多収穫を得るに充分な無機の養分が供給されている場合,葉面の光合成の行なわれる部位のCO_2濃度を土壌からのCO_2供給によつて高く維持し,高い光合成速度を維持することが,生産向上にとつて重要な条件になると推定される.よく知られているように,土壌中には,乾燥,地温上昇,pH変換,機械的処理,中性塩,農薬,キレート物質の添加,植物根の接触等の影響を受けて無機化されるようになる,いわゆる易分解性有機物が集積しているが,この易分解性有機物が作物に対するCO_2の直接の給源であり,窒素の天然の供給源である.本研究の目的は,このような易分解性有機物の集積と土壌の内的,外的要因との関係を明らかにし,土壌の生産性を高めるための基礎データを得ることにある.本報は本研究の第一報をなすものである.先ず最初にクーロメトリーを応用した土壌有機物炭素の新定量法,土壌から発生するCO_2の測定法および易分解性有機物の集積量の定量法を述べ,次に添加稲ワラ炭素の無機化および無機化過程中に生成される易分解性有機物の集積と土壌の諸性質との間の相関を述べた.有機物の無機化および易分解性有機物の集積と土壌の諸性質との間の関係についての知見を得るために次のような実験を行なつた.稲ワラ粉末を主要粘土鉱物,土性,塩基置換容量,遊離鉄,粘土,置換態窒素含量を異にする9種の土壌に加え,水分含量を最大容水量の60%に調節し,30℃で178日間培養した.稲ワラ炭素の無機化量を定期的に測定した.63および164日後に,土壌中に集積している易分解性有機物量を測定した.これらの実験は全て室内実験で行なつたものであり,供試した土壌は,過酸化水素処理によつて有機物の大部分を除去したものである.得られた結果をもとにして,添加稲ワラ炭素の無機化および易分解性有機物の集積と土壌の諸性質との間の関係を統計的に求めた.得られた結果は概略次の通りである.稲ワラ炭素の無機化は,遊離鉄含量,置換態窒素含量,粘土含量,置換容量に影響されることが統計的に推察された.土壌中の窒素含量および遊離鉄含量の影響について詳しい知見を得るために,NH_4-NおよびMackengieの方法によつて作つた加水酸化鉄の添加実験を行なつた.その結果,遊離鉄の添加は稲ワラ炭素の初期の無機化を抑制するが,無機化速度の大きい時期には,無機化を促進することが認められた.NH_4-Nの添加は稲ワラ炭素の無機化を促進するが,NH_4-N添加量と無機化量との間に直線的比例関係は見られなかつた.易分解性有機物の集積は土壌の炭素含量,置換態窒素含量に影響されることが統計的に推察された.易分解性有機物の集積に対する窒素の影響について,さらに詳しい知見を得るために,NH_4-Nの添加実験を行なつた.その結果,NH_4-Nの添加は易分解有機物の集積を促進し,窒素添加量と易分解性有機物の集積量との間には直線的比例関係のあることが認められた.さらに,易分解性有機物の集積は,火山灰土壌において大きいこと,および易分解性有機物の集積量は培養日数の経過と共に変動することが指摘された.
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